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第二回 司法鑑定制度を利用する日本企業のメリットについて(事例のご紹介)

事例1  訴訟前の司法鑑定は、訴訟の見通しをつけ、訴訟リスクを減らす

 日本A社は、B社の中国工場で生産された製品が自己の特許権を侵害して いることを発見し、司法鑑定機構に侵害鑑定を依頼した事例

経緯 B社は中国に投資して工場を建て、一つの化学原料を生産している。
日本のA社は、B社のホームページの監視を続け、ホームページでの製品のPR、生産プラントの設計と組み立て情報からB社の生産ラインから生産中の化学原料を推定した。
A社は、これらの化学原料は推定通りであればA社が中国で取得した特許を侵害することになると考えた。
A社は、慎重を期するために、取得した情報を証拠とし、また推定した化学原料について中国の司法鑑定機構に特許侵害鑑定を依頼した。

鑑定結果 A社の特許は5つの技術上の特徴を有している。
B社の化学原料はA社の特許の4つの技術上の特徴と同一又は同等である。
もう一つの技術上の特徴は、プロセス資料が不足しているため化学原料が具有しているかどうか判断できない。

 鑑定のメリット A社に権利を守る自信を付けさせた。同時に当該特許の問題点を把握することができた。
また、A社が今後取得する必要のある証拠を明確にすることができたので、今後の監視の方向を見定めることができた。
A社は、現在、プロセス資料を開示する証拠の収集に努めている。

事例2  競合社の製品内容を示すものとして作成した図面の正当性を立証する

 日本A社は、B社の中国工場で生産されている製品についてインターネット情報、カタログ情報、特許公報情報、その他の情報を収集してB社の製品内容を示す図面を作成し、この図面内容の正当性を立証するために司法鑑定機構に鑑定を依頼した事例

経緯 日本A社は、中国特許事務所に依頼してB社がその中国工場で生産している製品について、インターネット情報、カタログ情報、特許公報、その他の情報を収集した。収集の結果、自己が中国で所有している特許に対応できる技術内容が把握できたとして図面を作成した。
 日本A社は、B社の侵害停止を求める前に、作成されたB社の製品内容を示す図面の内容が収集した各種証拠から正当性があることを立証するために司法鑑定機構に鑑定を依頼した。

鑑定結果 作成された図面に記載された各技術要素は収集した各種証拠に基づいており、正当性があるとの鑑定がなされた。

鑑定のメリット A社は、この鑑定結果に基づき、B社に特許侵害停止交渉を開始することとしている。そして、自信をもってこの交渉に当ることとしている。

事例3  新しい公知例が存在しても尚、特許性があると確認し、有効特許として保持が可能

 日本A社は、中国で取得した特許について、対応のアメリカ出願の審査の過程で新しい公知例(特許公報)が引用された。この公知例が存在しても取得した特許についての特許性が阻害されないことを確認するために司法鑑定機構に特許有効性鑑定を依頼した事例

経緯 日本A社は、鋭意開発した製品についてPCT出願を行い、その後各国に国内移行した。中国で特許成立した後にあってもアメリカ出願については決着せず、アメリカ特許商標局審査官は特許公報の新しい公知例を引用して再度拒絶して来た。
 日本A社は、この新しい公知例は有力公知例ではあるが、尚中国で取得した特許は有効であると考えている。そして、この特許は中国ビジネスにおける知財保護の最有力特許であるので、特許性があることを立証するために司法鑑定機構に鑑定を依頼した。

鑑定結果 この新しい公知例が存在しても、尚A社の特許の有効性は阻害されないとの鑑定結果を得た。

鑑定のメリット A社の当該特許は、中国ビジネスにおける知財保護の最有力特許として位置づけを変更しない見通しを得た。

 

事例4  生産方法の推定

 日本A社は、中国において「生産方法」について特許を取得した。B社が同一の物を生産、販売開始したが、工場内での生産のために「生産方法」について証拠を収集できないでいた。そこで、A社は、司法鑑定機構に鑑定を依頼してB社の生産方法を推定することとした事例

経緯 日本A社は、中国において「生産方法」について特許を取得した。B社が同一と判断されるものを生産、販売開始したので、インターネットその他の手段でB社の「生産方法」の証拠を収集しようとしたが、工場内での生産のために「生産方法」についての証拠を収集できないでいた。そこで、A社は、B社の製品について図面を表し、A社の特許された物と同一である資料を作成した上で、司法鑑定機構に生産方法について推定するように鑑定を依頼した。

鑑定結果 B社の製品は、A社の特許された物と同一であって、特許された物は中国国内において特許出願前に公知でなかったと判断されて、B社の製品の生産方法はA社の特許された物を生産する方法が推定される旨の鑑定がなされた。

鑑定のメリット 中国において、司法鑑定により生産する方法を推定した根拠、すなわち証拠が形成された。この証拠は訴訟になった場合、裁判所に提出することができ、裁判所から差し押さえの命令と証拠保全の措置を受けることに有効である。

 

事例5  中国で取得した特許についての侵害監視

 日本A社は、中国で取得した特許及び実用新案について侵害監視したいと考えていたが、その手法が判らないでいた。日本の特許事務所経由で中国の特許事務所に侵害監視を依頼できることを知り、早速依頼することにした事例

経緯 日本A社は、中国で積極的に特許及び実用新案を取得している。そこで、中国で取得した特許及び実用新案について侵害監視したいと考えていたが、その手法が判らないでいた。日本の特許事務所経由で中国の特許事務所に侵害監視を依頼できることを知り、早速依頼することとした。
 日本の特許事務所と中国の特許事務所は協議し、次のルートで侵害監視することとした。
 1)インターネット監視
 2)特許公報監視
 3)公開資料監視
 4)その他の監視
また、中国の調査会社に依頼しての調査を行うかについては別途相談することとした。
 現在、順調に関連情報が日本のA社に届けられており、重要と思われる情報については適宜日本語への翻訳を行っている。

鑑定のメリット 将来、鑑定を活用する指針が得られた。これによって鑑定を活用する方針を確立することができた。
 また、A社は、中国特許事務所に依頼して侵害監視を継続することとした。

事例6  権利侵害の証拠としての司法鑑定書の活用

 日本A社は、B社の車エンジン用制御ユニットに含まれたハードウエアとソフトウエアはA社の企業秘密を使用するものであるとの確証を得たので、司法鑑定機構に鑑定を依頼した事例

経緯 日本A社は、中国の公安当局中国B社がA社企業秘密を使っている証拠を入手した。
争点は、次の通りであった。
争点1:A社が持っている車エンジン用制御ユニットに含まれたハードウエアとソフトウエアの技術情報及び顧客名簿、販売契約等の経営情報は企業秘密に該当するかどうか
争点2:B社のハードウエアとソフトウエアの技術情報及び経営情報はA社の企業秘密と一致しているかどうか
訴訟前、公安機関から裁判所からある司法鑑定機構に鑑定依頼がなされた。

 鑑定結果(訴訟時)
争点1→企業秘密である。
争点2→B社の技術情報及び経営情報はA社の企業秘密に一致している。

鑑定のメリット 訴訟前の司法鑑定によって、訴訟中における鑑定結果をある程度予測することができ、訴訟を有利に進めることができた。
その後、裁判所は公安機関から依頼された鑑定の結果に基いて、B社はA社の企業秘密を侵害したと認定した。

事例7  裁判官の裁量権を制限し、地方主義を排除

 日本A社は、中国においてカーオーディオの意匠権を持っていた。B社が生産、販売したカーオーディオが当該意匠権を侵害するものと考えられるので、司法鑑定機構に鑑定を依頼し、鑑定の結果は訴訟を維持するに充分なものであると考え、訴訟に踏み切った事例

経緯 日本A社は、B社に対してB社のカーオーディオはA社の意匠権を侵害するものであるので使用しないよう申し入れていたが、一向に使用を止めないので訴訟を提起することとし、訴訟前に司法鑑定機構に鑑定を依頼した。
 訴訟における争点は、次の通りであった。
 争点:A社の意匠は公知技術か、慣用設計技術か
     B社のカーオーディオは、登録意匠の保護範囲に入るか(製品と同一か類似か)

鑑定結果(訴訟時) A社の意匠は、慣用設計技術ではない。中国の特許庁に該意匠が特許性があることを示す検索報告の作成を依頼し、検索報告に基いて鑑定結論を出すことになった。
 B社のカーオーディオは、登録意匠と類似しており、保護範囲内のものである。

鑑定のメリット 訴訟前の司法鑑定によって、訴訟中における鑑定結果をある程度予測することができ、訴訟を有利に進めることができた。

事例8  他人の実用新案侵害を避ける

 中国のA社は、中国において湯沸し器を生産、販売することに決定し、生産、販売に先立って関連の特許調査を特許事務所経由で司法鑑定機構に検索と分析を依頼した。その結果、関連の実用新案及び特許が発見された。A社は、発見した実用新案及び特許について司法鑑定機構に特許の有効性鑑定と侵害鑑定を依頼した事例

経緯 中国のA社は、自社の湯沸し器について実用新案を所有している。顧問の弁理から中国において生産、販売するに先立って関連の特許調査をするよう勧められた。このためA社は特許事務所経由で司法鑑定機構に検索と分析を依頼した。その結果、強力と思われる実用新案が発見されたので、司法鑑定機構に特許の有効性鑑定と侵害鑑定の依頼を行った。

鑑定結果 強力と思われた実用新案には有効性がないとの鑑定結論を得た。ただ、問題とならないと思っていた関連特許の保護範囲に入るとの鑑定結果となった。

鑑定のメリット 当該関連の特許を避けるべき設計変更中であり、紛争を事前回避する見通しを得た。
 A社は、他人の権利を避ける手法を得、自社新製品の開発と知財による保護に一層力を入れるようになった。
 実用新案に有効性ない資料が発見されれば、特許の無効のための手続きを取る予定である。

事例9  商標類否判定

 日本のA社は、日本において著名会社であり、その製品の商標は日本では登録されていたが、中国で商標登録していなかった。A社は、中国進出に当って商標検索をしたところ当該商標を用いたロゴマークが中国で商標登録されていることが判明した。A社は、A社の商標が中国で登録されたロゴマークの商標を使用することになるか司法鑑定機構に鑑定依頼した事例

経緯 日本のA社は、日本において著名な会社であり、その新製品としてゲーム機を開発し、商標について日本で登録した。しかし、中国に進出する意図はなかったので中国において商標登録をしていなかった。その後、A社は合弁で中国に進出することになり、商標検索を行った。その結果、A社の商標を多少もじってロゴマークとした商標が登録されていることが判明した。A社は、A社の商標がロゴマークの商標を使用することになるか司法鑑定機構に鑑定依頼した。

鑑定結果 商標権侵害しないとの鑑定結果を得た。

鑑定のメリット 日本のみで生産、販売する計画であっても将来の可能性を見極めて中国において商標登録しておいて紛争を事前回避しなければならないが、盗用されたと考えるような場合、商標登録の保護範囲をとことん究明すべきである。

事例10

 A社の権利は、「著作権法」の範囲に属するか、あるいは「不正競争防止法」の範囲に属するか

 中国のA社は、新しい外国為替指標チャートを工夫して作成した。A社は、B社がA社の許可を得ずにウェブサイト上で使用しているので、再三使用を取り止めるように申し入れたが取り止めないので、訴訟提起することとし、訴訟前に司法鑑定機構に鑑定を依頼した事例

経緯 中国のA社は、新しい外国為替指標チャートを工夫して作成し、インターネット上に公表した。B社はA社の許可を得ずにウェブサイト上で当該外国為替指標チャートの使用を開始した。A社は、B社に再三使用を取り止めるように申し入れたが、取り止めないので、訴訟提起することとし、訴訟前に司法鑑定機構に鑑定を依頼した。

鑑定結果 著作権上の範囲には属さないが民法上の救済を受ける合法的な理由がある。
 また、B社の使用は不正競争防止法上の権利侵害行為に該当する。

鑑定のメリット ネット環境上の新しい問題が派生した時には、一早く司法鑑定機構に鑑定を依頼して知的財産権紛争処理することとした。
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